ファンコミュニティはどうつくる?ファンマーケティングの道しるべ
社外アイデア企画室株式会社による企業研究。今回は「ファンコミュニティの作り方」をテーマにお届けします。
企業が長く愛されるには「顧客のファン化」が欠かせないと以前からいわれていますが、ここ数年では、顧客同士が自由に情報交換をしたり、商品・サービスを紹介しあったりする「ファンコミュニティ」の重要度が、マーケティングにおいて増しています。
ファンが、自然とコミュニティを作りたくなるようにするにはどうすればよいのか、またコミュニティを盛り上げていくために企業は何ができるのかを解説します。
目次
顧客をファン化するには?
新規顧客の獲得のためにカスタマージャーニーを考え、マップを書いてみたことがある人は多いでしょう。
カスタマージャーニーとは
- 商品やサービスを知る
- 購入や利用を検討する
- 実際に購入・利用する
- 再購入や利用の継続を決める
といった消費者が辿る一連の流れを「旅」に例えたもの。
しかし、このカスタマージャーニーの考え方はもう時代遅れという人もいます。
なぜなら消費者が必ずしも、予測通りの道順をたどってくれるとは限らないからです。とくにB to Cでは、消費者はSNS上にある膨大な量の情報に触れることができ、流行の移り変わりが早いため、消費行動をパターン化するのは難しいと考えられます。
ではどうやって顧客のファン化をマップに落とし込めばよいのか。ここで参考になるのが、ジョーイ・コールマン著の「100日ファン化計画」です。
顧客のファン化には最初の100日が大事
コールマンは著書のなかで、顧客をファンにするにはファーストコンタクトからの100日間が非常に重要であると述べています。また、100日間の企業と消費者の関係性の移り変わりについて、以下の8つのステップで表しています。
1.品定め
顧客になる前の段階。売ることがすべてではなく、企業と顧客の繋がりを作り出すフェーズ。
2.自認
購入・利用の決定を、顧客と企業がともに喜び合い祝福する。「仲間になった」という繋がりを演出するフェーズ。
3.肯定
本当に購入・利用を決めてよかったのかという顧客の疑問を肯定する。顧客の決定は正解であるという肯定感を、企業が顧客に与えるフェーズ。
4.立ち上げ
購入品の箱を開けた瞬間の喜び、初めてサービスを利用する際の感動など、第一印象を最高のものにする。顧客に感動を与えインパクトを残すフェーズ。
5.順応
「1回購入して終わり」、「1回サービスを利用して終わり」では、顧客は静かに去っていってしまうもの。商品・サービスの価値を継続的に顧客に印象付けられるよう、サポート体制の充実などで、顧客を繋ぎ止めるフェーズ。
6.完遂
顧客が購入・利用でメリットを得られたと感じたタイミングで、一緒にお祝いをする。顧客からフィードバックをもらうなど、接触を途切れさせず、次の購入・利用に繋げるフェーズ。
7.養育
お得意様に限定品や、優遇プログラムを用意し、特別感を演出。信じてついてきてくれる顧客のロイヤリティを高めるフェーズ。
8.支持
顧客が家族や友人に商品・サービスを紹介・推薦してくれるよう促す。「感動を共有したい」「紹介制度を利用しメリットを得たい」など顧客の自発的な感情が、新たな顧客を呼び込んでくれるフェーズ。
フェーズごとの関わりの変化を意識
上記の8つのフェーズで、1から4までは通常の企業と消費者の関係の創出ステップです。
そして、5以降は顧客をファンへと育てていく過程といえるでしょう。
「5.順応」と「6.完遂」は1回限りの繋がりで静かに去っていく顧客を繋ぎ止め、関係を強化し、仲間意識を育んでいく段階。この過程を丁寧に行うことで、「顧客」から「ファン」へと関係性を変化していけると考えられます。
そして、ファンが自ら「ファン同士と繋がりたい」「ファン同士で情報交換したい」と考えるのが「7.養育」「8.支持」のフェーズです。
「ワオ!」がコミュニティの推進力に
それでは、養育・支持のフェーズをスムーズに展開するために必要なものは何か。その答えは、アメリカの通販会社Zappos(ザッポス)のコアバリュー10ヶ条からヒントを見つけることができます。
ザッポスのコアバリュー10ヶ条
- サービスを通して「ワオ!」という驚きを届ける
- 変化を受け入れ、その原動力となる
- 楽しさとちょっと変わったものをクリエイトする
- 冒険好きで、創造的で、オープン・マインドでいる
- 成長と学びを追求する
- コミュニケーションをとり、オープンで正直な人間関係を築く
- ポジティブなチーム・家族の精神を築く
- 限りあるところから、大きな成果を生む
- 情熱と強い意志を持つ
- 謙虚でいる
これはザッポス社が社員へ向けて作ったもので、この10ヶ条を従業員全員が価値基準として共有することで、顧客満足度を上げていこうというものです。
この考え方はファンコミュニティにも応用できるでしょう。特に重要なのが1つ目、「サービスを通して”ワオ!”という驚きを届ける」です。
ファンのロイヤリティ(企業に対する愛着や信頼)を増大するために、企業がファンに行うアプローチとして「どれだけワクワク・ドキドキを届けられるか」は非常に重要です。
そして、ファンが「ワオ!」を誰かと共有したい、共感し合いたいと思うことで、ファンコミュニティは発生・成長していくと考えられます。
DIYの投稿で盛り上がる
カインズのファンコミュニティ
ここでホームセンター、株式会社カインズの例を紹介します。カインズは最近新たなプロダクトブランドの開発を発表しました。
1978年創業、15年前からはオリジナルブランドの開発に力を入れ、売り上げを大きく伸ばしているカインズ。既存のやり方に胡座をかくことなく、時代とともに移り変わるライフスタイルや消費者のニーズに合わせて、新しいコンセプトを打ち出すなど、変化を恐れず新しいことに取り組んでいく姿勢が会社の強みといえるでしょう。
消費者が自由に交流できるサイトを運営
インテリア・エクステリア・グリーン・ハンドメイド・クッキングなどあらゆるジャンルの「素材」を販売しているカインズは、消費者にレシピを紹介したり、消費者が作った作品の写真を投稿できる「CAINZ DIY Square」というサイトを運営しています。
「DIYをするすべての人々の交流の場となるコミュニティサイト」と銘打っており、日曜大工、木工、鉢植え、料理など、利用者はさまざまな写真を投稿。またファン同士が自由にコミュニケーションできる掲示板も用意されています。
毎日サイトに訪れたくなる工夫
このコミュニティサイトにはポイント制度があり、投稿やコメントをすることでポイントを獲得。ポイントが増えるとランクが上がっていく仕組みです。
1日1回ログインすることでもポイント付与。またほかの利用者の投稿に「いいね」をするだけでも1日3回までポイントが付与されるなど、毎日サイトに訪れるメリットを利用者に提供しています。
利用者は、投稿するネタがない日でも「ポイ活」感覚で楽しむことができるため、ファンと企業の接点が途切れることがありません。
投稿が自己表現の場に
頑張って何かを作ったら、写真をとって誰かに見せたいというのは、多くの人が持つ自然な感情です。
ファンコミュニティサイトは決して過度な承認欲求を刺激するわけではありません。ただ同じファン同士である利用者に
- 共感してもらえれば
- 楽しみを共有できれば
- 作り方がわからない人の参考になれば
といった「純粋で柔らかなファン心理」が健全なファンコミュニティには存在します。
カインズのコミュニティサイトも会員同士で作品を褒めあったり、「いいね」をつけたりということが、DIY継続のモチベーションとなっている人が多いと考えられます。
こういったファン同士の「やさしさ・思いやり」はファンコミュニティの運営において欠かせない要素。コミュニティ内の雰囲気作りは企業にとって最重要課題ともいえるでしょう。
カスタマージャーニーを
「終わらない旅」に
企業が顧客との距離を縮める方法としては
- SNS
- メルマガ
- ライブ配信
- ファンコミュニティ
などが挙げられますが、企業側からの発信を前提とするSNS、メルマガ、ライブ配信などとファンコミュニティは大きく本質が異なります。
ファンにお金を使ってもらうことを目的とするファンマーケティングの一歩先、ファンの声に耳を傾け商品開発やサービス作りに反映させる「ファンベースマーケティング」の要素を、ファンコミュニティは内包するからです。
また、ファンコミュニティが立ち上がり
- 「ファン活動を楽しみたい」顧客の参加意識
- 「ファンを増やしたい」顧客の仲間意識
- 「飽きない工夫を共有し合いたい」顧客の愛着感
がうまく周りだすと、ファンコミュニティは自然と活発化し活性化していくでしょう。
ここまでくれば、ファンが自らコミュニティを育ててくれると考えられます。また、活発化したコミュニティから企業は、新たな商品やサービスのアイデアをたくさん得られるでしょう。
まずは畑を耕すように、ファンコミュニティの土壌となる場をしっかり構築し、ファンの愛着心を育てるとともに、コミュニティに参加するモチベーションを刺激してみてください。そして、「1回利用して終わり」ではなく、長く深く愛されるコミュニティを目指してください。
※こちらの記事は社外アイデア企画室株式会社が配信しているPodcastの内容をまとめたものです。配信は以下よりご視聴いただけます。