海外ビジネス研究:ベトナム編「一枚のピザから世界を笑顔に」
社外アイデア企画室株式会社による海外ビジネス研究、今回は2023年2月にタイのバンコクで開催されたWAOJE GVF 2023 in バンコク「Global Venture Forum」で出会った企業の中から、日本人が経営するベトナムのピザ屋「Pizza 4P’s 」を紹介します。
Pizza 4P’sは2011年にベトナムのホーチミンでスタート。こだわりの食材や徹底したおもてなしで地元の人に愛され、創業から約10年で年商70億円を超える大レストランチェーンに成長。現在ベトナムとカンボジアで約50店舗を展開中です。
食を通して世界を笑顔にしたいという思いで、環境問題へサスティナブルな取り組みをすると同時に、AIを駆使して味やサービスのクオリティを管理。今後、1000店舗を目指して成長していきたいという「Pizza 4P’s 」の魅力を深掘りします。
Pizza 4P’s ピザフォーピース
◆2011年にベトナム、ホーチミンでスタート
サイバーエージェント出身の夫妻が立ち上げたレストランチェーン。ベトナムとカンボジアで50店舗を展開中。インドと日本にも出店予定。
◆こだわりの食材やサービスでローカルから高い支持
ピザの肝となるチーズは自社で生産、野菜は有機栽培農家と契約して仕入れている。来店客の9割はローカルの人々。
◆Make the World Smile for Peace(平和のために世界を笑顔に)
ミッションを「Delivering Wow, Sharing Happiness」とし、お客様だけでなく働く仲間の笑顔や感動・幸福も大切にしている。
目次
きっかけは裏庭に仲間と作ったピザ窯
画像引用:Pizza 4P’s公式サイト
始まりは2005年のこと。創業者の益子氏は、ふとしたきっかけから自宅の裏庭にピザ窯をつくることにしました。
当時、メンタルの落ち込みを感じる日々を過ごしていましたが、仲間と一緒に泥だらけになってピザ窯を作っていると、自然と心が和らいだそう。
6ヶ月かけて完成したピザ窯でピザを焼き、友人を集めて開いたパーティでは、自然と笑顔があふれ、人と人の繋がりを感じられるかけがえのない時間を過ごすことができたといいます。
これが原体験となり、「人々の幸せや笑顔にもっとコミットしたい」と、一緒にピザ窯を作った仲間とベトナムに渡り、2011年にPizza 4P’sをオープンしました。
「Make the World Smile “For Peace”.(平和のために世界を笑顔にする)」という壮大なビジョンを掲げ、「Delivering Wow, Sharing Happiness.(驚きを届け、幸せをシェアする)」ということを自分たちの使命としているPizza 4P’s。
益子氏は、「ビジネスは人々の幸せにコミットするための手段」と話します。
お客さんに届けたいのは「ストーリー」
※画像はイメージです
創業から一貫して食材にこだわってきたPizza 4P’s。
無農薬や有機栽培に対してまだまだ意識が高いとはいえないベトナムで、納得のいく野菜を提供してくれる農家を見つけるまでには試行錯誤の連続だったといいます。
また、十分な量のフレッシュチーズを確保することも困難だったため、自ら牧場を経営。牛を海外から取り寄せ、さまざまな牛のミルクでピザに合うチーズを開発してきました。
そんなPizza 4P’sが大切にしているのは、「どこで・誰が・どんな思いで作った食材なのか」というストーリーごとお客さんに届けること。そして「食を通じて世界を笑顔にすること」。
食材へのこだわりと、人々を笑顔にしたいという思いが奏功し、Pizza 4P’sは創業から10年で年商70億円を超える大レストランチェーンへと成長しました。
独自に考案したハッピーサーベイ
※画像はイメージです
Pizza 4P’sでは、従業員が笑顔でなければお客さんを笑顔にすることはできないという考え方から、まずは従業員を笑顔にすることに徹底的にコミットしています。
従業員が職場に対してどの程度の信頼感や愛着を持っているかを数値化する「eNPS」を採用する企業が増えていますが、Pizza 4P’sでは従業員の幸福度を測る「ハッピースコア」を独自に考案。
毎月、従業員が仕事に対する幸福度をアンケート形式で回答する「ハッピーサーベイ」を実施し数値化。189項目にも及ぶ設問に全従業員が回答することで、幸福度の高い店舗と低い店舗が一目でわかるように見える化し、改善のためのアクションプランを考え実行しています。
また、マインドフルネスやウェルビーイングに着目した社員研修も頻繁に行っており、まずは社員が心身ともに満たされた状態で働ける環境を作ることで、「幸せ」を地元の人に届け、さらに世界へ広げていこうという流れを作っています。
「eNPS」とは
顧客が企業にどのくらいの信頼や愛着を感じているかという顧客ロイヤリティを数値化する指標「NPS」。
これを従業員向けにしたものが「eNPS」。Employee Net Promoter Score の略で、「従業員エンゲージメント」を測定するもの。
エンゲージメントは職場に対する信頼や愛着のことで、エンゲージメントの高い従業員は、顧客により質の高いサービスを提供したいという考えを持って、仕事に取り組んでくれると考えられる。
Pizza 4P’sのハッピーサーベイ
「幸福度」といえばブータンのGNH(Gross National Happiness: 国民総幸福量)が有名ですが、Pizza 4P’sはハッピーサーベイの質問項目を作成するにあたり、GNHを参照。
さらにGNH指標の開発に携わり、この考え方を企業に応用する活動に取り組んでいるDr. Ha Vinh Tho の協力も得ながら改良を重ねた。
世界を笑顔にする取り組み
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ここで、Pizza 4P’sが、環境や平和のために取り組んでいる数々の施策のなかから代表的なものを紹介します。
ゴミゼロ目標をアートに転換
Pizza 4P’sではかつて週末になると、1日に1店舗で180kgにものぼるゴミが出ていました。飲食店ではなかなか難しいゴミの削減。そこで考えたのがアートに転換する試みでした。
クリエイティブを統括するディレクターを採用し、プラスチックゴミなどを作品にして展示。エキシビジョンを開催するなどレストランの枠組みを超えて、Pizza 4P’sが取り組むサスティナビリティへの挑戦を体現。
減らせないゴミは形を変えて人々を楽しませるツールにする、そういった発想の転換はPizza 4P’sが得意とするイノベーションのひとつです。
歪み合う国同士の食材を1枚のピザに融合
Pizza 4P’sは、政治上あい入れない国同士を、食を通じて親和させることにも取り組んでいます。
国際平和デー(ピースデー)には、政治上敵対している国の食材をミックスしたピザを作成。パッケージにはイスラエルとパレスチナ、中国と米国、インドとパキスタンの国旗カラーでデザインした花をあしらい、見る人を楽しませるとともに、平和への願いをこめました。
1枚のピザで、世界を平和のために笑顔にする。Pizza 4P’sは創業以来変わらないビジョンを次々と形にし、世界へメッセージを発信し続けています。
長期目線で顧客とつながる
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世界中の飲食店が大きな打撃を受けたコロナのパンデミック。Pizza 4P’sも売り上げがゼロになり厳しい時期を経験しましたが、ピンチの中でも理念に基づいたイノベーションで未来につながる施策を講じてきました。
パンデミックで踏み切ったデリバリー
Pizza 4P’sは創業からしばらく、デリバリーを行っていませんでした。
冷めたピザは味が落ちることと、ゴミを増やしてしまうということで避けてきたデリバリー。
しかし、コロナの流行によるロックダウンで、レストランが開けられなくなると売り上げはゼロに。2000人の従業員を守るためにデリバリーの開始に踏み切りました。
デリバリーシステムを自前で構築
多くの飲食店がUberやGrabといったフードデリバリーシステムを利用するなか、Pizza 4P’sはシステムを自前で構築しました。UberやGrabを利用すると顧客と直接つながることができず、顧客データを自社で蓄積することができないためです。
デリバリーシステムを単なるアプリではなく、顧客とつながるための大切なツールと捉えるPizza 4P’s。よりパーソナライズされたサービスの提供を目指しており、かねてITで、業界に変革を起こしたいと話している益子氏のこだわりが、デリバリーシステムにも現れています。
顧客満足度の測定にはAIを駆使
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Pizza 4P’sではオペレーションの監視や料理のクオリティ管理にAIを導入しています。
オーブン上のカメラがピザを評価
オーブンの上にカメラを設置し、焼き上がったピザをAIで画像判定。形・温度・焼き方・具の偏りなどをAIが評価。
Pizza 4P’sでは常に同じクオリティの料理を提供する方法として、シェフの腕に頼るだけではなく、AIを導入することで品質確保を仕組み化しています。
入店から退店までの顧客満足度もAIが数値化
サービスや空間がお客さんの満足度につながっているかもAIで数値化。オーダーから食事を終えてお会計をするまでの全行程をAIがスコアリングしています。
さらに、お客さんもその場でお店のサービスを評価できる仕組みになっており、低評価がつくと、お店の代表がお客さんのもとへ駆けつける流れ。
その場で不満を聞き、コミュニケーションをとることで、自分たちの改善点を知ると同時に、お客さんにも笑顔で帰ってもらえるようにと努めています。
Pizza 4P’sでは、お客さんからフィードバックをもらうことを徹底。そこで集めた声をイノベーションに落とし込むことを大切にしています。
AIが進歩しても人の仕事はなくならない
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サービスのいたるところでテクノロジーを活用しているPizza 4P’sですが、この先AIがどんなに進歩しても人の仕事はなくならないと益子氏は語ります。
氏にとってレストランは人と人が繋がる場所。コミュニケーションを通じて人々がより幸せになるためにどうすればよいのか、そういったことを考えることは、きっと人にしかできないでしょう。
AIの進歩は、人が人にしかできない仕事に専念できるようになる好機と捉えるとよいかもしれません。
あとがき
社外アイデア企画室株式会社がPizza 4P’sの基調講演を通してまず感じたことは、理念の一貫性です。
例えば環境にやさしいエコバッグを作る際には、実際にバッグを土に埋めてみて、本当に分解されるかを実験。またその過程を記録し公表することで世の中に対してエコやサスティナビリティについて訴えかける、こういった活動をPizza 4P’sは絶えず行っています。
またゴミをアートに変える試みや、世界平和を願ったピザなど、創業時に立てた理念を形にするアイディアを次々と打ち出しています。
これらの取り組みは目の前の売り上げに直結するものではありません。しかし、理念の実現や社会貢献のためにどこまでも追及していく姿勢が、従業員の笑顔につながり、幸福度に繋がり、そしてよりよいサービスにつながっているといえるでしょう。
企業価値の向上のための核となるポイント
- 将来のビジョン
- 社会への貢献
- 付加価値の創出
- 従業員の満足
- 顧客の満足
これらすべてがひとつの理念に起因している、この一貫性こそがPizza 4P’sの魅力であり、成功の理由ではないでしょうか。
※こちらの記事は社外アイデア企画室株式会社が配信しているPodcastの内容をまとめたものです。配信は以下よりご視聴いただけます。