マンゴー愛で農家を救う!コロナ禍にめげずスイーツ通販を拡大させた使命感とは
社外アイデア企画室株式会社による企業研究。今回は事業継続に必要な「使命感」と、「作業工程の分解」をテーマにお届けします。
お話を伺ったのは沖縄で「マンゴースイーツ専門店」を経営する藤田梨恵さん。コロナ禍には自社の通販サイト「おきぽたショップ」に力を入れ、マンゴースイーツの売り上げを拡大しました。
マンゴーへの熱い想いや、農家へのリスペクト、そして食品廃棄ゼロを目指す環境への使命感などから見えてきた、事業成功のポイントを深掘りします。
目次
画像引用:おきぽたショップ公式サイト
◆代表を務める藤田さんは福岡県出身。大学時代に沖縄の伝統芸能「エイサー」に魅了され、卒業後に沖縄に移住。広告会社でネットマーケティングなどに従事。
◆沖縄の特産品を全国に紹介したいと「おきぽた(沖縄ポータルサイト)ショップ」を立ち上げ。マンゴーなどの通販を開始。
◆台風など自然被害で皮に傷がつき、贈答用にできず廃棄されるマンゴーが大量にあることを知り、生産者を救いたいという思いから会社を辞め独立。マンゴースイーツ専門店をオープン。
◆開店当初は物産展などでの販売が中心だったが、コロナの流行で通販に注力。冷凍マンゴーや、糖度の高い沖縄マンゴーをふんだんに使ったスイーツ、焼き菓子などが人気。
直販から通販にシフトし大成功
ーーコロナの流行が始まるまでは、売り上げの8割が催事からだったそうですね。
関東や関西を中心にデパ地下や駅構内で、物産展やポップアップショップを開催していました。
うまいこと軌道に乗っていたので、スタッフを増やしさらに伸ばしていこうと思っていた矢先のパンデミック。催事が開催できなくなり、大打撃でしたね。
ーー通販はやっていなかったのですか?
小さくはやっていました。ただ、私自身が催事で各地を飛び回る生活を送っていたので、通販事業を確立させる時間がなかったというのが正直なところです。
しかし、コロナで身動きが取れなくなったとき、事業の形をゼロから再構築しようと思い、通販に力を入れることにしました。
ーー催事が売り上げの中心だったところから、通販へ舵を切るにあたって、不安はなかったんですか?
迷っている余裕はありませんでした。コロナで物産展などの催事が一切、できなくなりましたから。
「農家からマンゴーを仕入れる→商品化する→消費者に届ける」という流れを止めるわけにはいかない。農家さんがちゃんと利益をあげられる状況を作ってあげなければいけない。とにかくやれることをやろうという一心でした。
「考えすぎて、前へ進めないのはよくない」と思って、思い切ってシフトしたのがよかったんだと思います。
消費者の応援が事業の推進力に
ーー持ち前のポジティブさと思い切りの良さが功を奏したんですね。通販事業を成功させるためにどんなことをしたのですか?
特別なことはしていないんです。あのときちょうど「応援購入」というのが流行ったんですよね。
沖縄や沖縄のマンゴー農家さんを応援するスイーツを開発してSNSで宣伝したところ、爆発的にヒットしました。
応援購入
生産者の想いやこだわりに共感して、商品を購入する消費行動。生産者を応援したいという気持ちが、消費者にとって購入の動機となり、商品の付加価値になる。
ーーコロナ以前とコロナ禍では、消費者の反応に違いはあったんでしょうか。
コロナをきっかけに、お客さんがものを買う基準が大きく変わったと感じます。
以前は「魅せる」ことがすごく大事でした。とくにスイーツは「写真映えする見た目」がすごく大事。思わず買いたくなるようなキャッチコピーも重要でした。
しかしコロナ禍では商品を買うことが単なる「消費行動」ではなく、消費者にとってひとつの「体験」に変化したように思います。
「誰かの思いを理解する」「誰かの思いに共感する」「誰かを応援する」そういう能動的な行為を大切に感じてくださっているお客様が増えたように感じました。
だからこれからは生産者側も、堂々と弱みを見せたり、努力や苦労を言葉にしてもいいのではないでしょうか。
ーー日本はもともと苦労を口にしないことが美徳といった考え方がありますよね。また、ビジネスで弱みを見せたらダメといった風潮も。でも、いまは弱みを見せることは企業にとって、必ずしもリスクではないと?
コロナ以前から「プロセスエコノミー」という言葉は広まっていましたが、パンデミックによって、より色濃くなったように思います。
なにも苦労を押し売りして、同情を買うわけではありません。ただ、生産者の想いや努力を正直に公開し、共感してもらうことで企業のファンを増やしていく。消費者を仲間として巻き込んでいく。そういった関係性を生産者と消費者が対等に楽しめれば素敵ですよね。
プロセスエコノミー
企業が商品開発やプロジェクト実現までの過程を発信し、収益に繋げること。同じような会社や商品が溢れるなか、他者との差別化をはかるために、「社長の想い」「現場の想い」「生産者の想い」などを発信し、消費者の共感を呼ぶことで顧客を増やしていく。
世界に誇れる沖縄マンゴーの生産者を救いたい
ーーここで、藤田さんがそもそもマンゴースイーツ専門店を立ち上げるに至った経緯を聞いてもいいですか?
会社員時代に沖縄の特産品を紹介する通販サイト「おきぽた(沖縄ポータルサイト)ショップ」を企画して、沖縄マンゴーの販売を始めたんです。
すごい反響があって、農家さんをかけずり回って出荷量を確保したのですが、2014年に大型台風で大打撃を受けました。
沖縄が3日間暴風域に入って、落下してしまったマンゴーは傷がついてしまったので100kgくらい、200〜300個捨てなければいけなくなって。大きな損失に目が眩む思いでしたね。
でも、台風が去って農家さんを訪れると、その何倍もの量が廃棄される現実がありました。
ーー表面に傷がついただけで、味は変わらないんですけどね。マンゴーは高級な贈答品として扱われるから、傷物のマンゴーは出荷できないと。
そうなんです。マンゴーは1年に1回しか収穫できないので、そのマンゴーが出荷できないと農家さんは商売にならない。それで廃業してしまう人もいるんですよね。
せっかく沖縄には世界に誇れるマンゴーがあるのに、農家さんが廃業しちゃうと作る人がいなくなってしまう。
ーー傷ついた「台風マンゴー」を加工食品にして販売する業者はいなかったんですか?
当時はいなかったんです。そこに着目しました。味は最高なんだから、スイーツに加工すれば全国に届けられるって。
沖縄はマンゴー生産日本一なのに、加工業者がない。ないなら私がやるしかない!。これは私の使命だと思いました。
スタートは自宅でお菓子作りの練習から
ーースイーツに関する知識はあったんですか?
それがまったくなかったんです。加工品に関する知識もゼロ。本屋さんでお菓子作りの本を買って、自宅で焼いてみるところからのスタートでした。
お菓子作りって、ちゃんと法則があるんです。卵・砂糖・小麦粉などを加える順番が決まっていて、いい加減にやると出来上がりがめちゃくちゃになってしまう。
でも、ちゃんと法則通りにやると誰でも同じ味・食感に仕上げることができるんです。
ーーそれは大量生産に向いているということ?
そこがまた難しくて。スイーツを製造するためには職人さんを雇う必要があるんですが、職人さんの気質といいますか、こだわりがあるんですよね。
もちろんその気持ちは尊重したい。でも大量生産できなければビジネスにならない。製造過程を確立するまでには、一筋縄ではいきませんでした。
ーー職人さんとはどのように折り合いをつけたんですか?
製造工程を一括ではなく分解して考えたんです。この部分は職人さん、この部分は機械、といった具合に役割を分け、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮できるように、製造フローを見直しました。
大量生産で大事なのは「誰が作っても同じものができること」。マンゴーは収穫後に実が熟していく追熟によって味の変化が大きいので、同じ味のスイーツを量産するにはあまり向いていないのですが、工場でできる工程を見直すことで、クオリティを一定に保てるようになりました。
ーーそうやって構えた工場で、いまではOEMも行っているんですよね。
工場がないから量産できないというスイーツ屋さんは多いんですよ。
スイーツの世界って「人頼み」の部分が大きくて、街のケーキ屋さんはすべての工程を職人さんが手作業でやっていたりしますよね。製造が完全に「人依存」だと、作れる数に限界がある。
せっかくオリジナル商品の人気が出ても、量産できないからお客さんの要望に答えられないというお店はたくさんあります。
うちには機械がありノウハウもあるので、「では協力しましょう」と。ライバルになり得る企業のスイーツをうちの工場で作っているなんてこともあるんですよ。
OEMとは
Original Equipment Manufacturerの頭文字。メーカーが他社のブランド製品を製造すること。
製造過程だけを受託することもあれば、自社製品として販売まで請け負う場合もある。自動車・電化製品・食品・化粧品などさまざまな分野で取り入れられている生産形態。
マンゴーの素晴らしさを余すところなく届けたい
ーー店舗経営・ECサイト運営・OEMと着実に事業を拡大しているバイタリティ溢れる藤田さん。ご自身のことを「マンゴーソムリエ」とおっしゃっているんですよね。
マンゴーって世界で600種類あると推定されているんです。1回の人生ではとても食べきれない。それに、同じ品種でも農家ごとに味が全然違うんです。まるでワイナリーごとに個性があるワインのようじゃないですか。
ーー同じ品種でも、農家によって味が違うんですか?
土の質もあるし、肥料の種類やあげ方、水の量などでも味が変わるんです。「味の標準」というものは感覚的なものなので、販売する際の味の選定にはものすごく気を使います。
毎年購入してくださっているお客さんに、同じ品種を送ればよいというわけにはいきません。ワインソムリエが毎年、ワインの出来栄えや味を評価するように、マンゴーにも選定が必要。目利きなら任せてください。
ーーおきぽたショップではマンゴーを使った美容製品も販売してますよね。
これまでマンゴー一筋で16年近くやってきて、仕入れたマンゴーは5トンくらい。これってつまり、相当な量の皮とタネを廃棄してきたということなんですよね。
もったいないな、何か再利用できないかなと調べていたら、タネから油が取れることがわかったんです。「じゃあ、化粧品つくれるじゃん」って。とにかく思いついたら、まずやってみよう、試してみようと思うタチなので、さっそく開発を始めて、美容液と石鹸を作りました。
ーーここでも「考えすぎずに、まずやってみる」の精神が発揮されたんですね。最後に、ビジネスをしていて、オリジナル商品を開発したいと思ったときに、何から始めたらよいか、アドバイスをいただけますか?
「とにかくやってみる」の一言につきます。スモールビジネスなら自分で作ってみる。実験してみる。
自作が難しいものは、同系統のものを作っている人を探して連絡してみる。話を聞きに行ったり、工場見学に行ったり。
オフィスで考えたりリサーチすることも大切ですが、実際、そういう時間ってあまり役に立たないんです。
もうどんどん外に出て、人に会う、聞く、見学する。とにかく動き出すことが大切だと思います。
社外アイデア企画室 ’s EYE
今回のインタビューを通して、お伝えしたい「事業成功のポイント」は以下の2つに集約できます。
使命感こそが継続の秘訣
藤田さんのお話にもありましたが、これまでお会いしてきた多くの経営者の方たちに共通するのは、「これをやれるのは自分しかいない」という使命感です。
自分がやらなければ、自分がこの問題を解決しなければという確固たる意思が事業継続のモチベーションになっている方が非常に多いのが特徴です。
インターネットを検索すれば情報が溢れている時代ですから、お金を稼ぎたいだけなら方法はいくらでもあるでしょう。もちろん、起業の動機が「儲けること」というのは悪いことではありません。ただし、会社を成長させていく過程で多くの経営者が気付くこと、それは「社会の問題を解決したい」という使命感です。
事業を継続していくと、「信念と忍耐が必要」と感じる瞬間が数え切れないほどありますが、この忍耐を支えてくれるのが使命感であり、「やれるのは自分しかいない」という強い意思です。
作業工程の上手な分解
藤田さんは、加工が難しいマンゴーを常に一定のクオリティで製品化し販売することに成功。この裏には、職人と機械とで作業工程を上手に分解し、棲み分けを明確にしたというポイントがありました。
「作業の分解」は何も製造業に限った話ではありません。社外アイデア企画室株式会社では、SNS運用代行も行っていますが、作業は常にチーム制。複数人で担当することでサービスが属人的になる危険性を避ける狙いがあります。
また、投稿のクオリティを維持するためにチームメンバーが投稿内容に合わせて作業を分解し、セグメント化。この作業分解が上手くはかれると、一括化よりもさらに効率と効果の向上や、クオリティの維持がしやすくなると考えられます。
もし、会社のルーティーンがマンネリ化している、効率があまり上がっていないと感じているようなら、ぜひ作業工程の見直しの際に「適切に分解できているか」という視点を盛り込んでみてください。
※こちらの記事は社外アイデア企画室株式会社が配信しているPodcastの内容をまとめたものです。配信は以下よりご視聴いただけます。