東南アジアの新興IT企業Grab:Uberを凌駕するハイパーローカル戦略を解説
社外アイデア企画室株式会社による企業研究”第2弾”は「ハイパーローカル戦略」をテーマにお届けします。
紹介するのは東南アジアでの生活・滞在に欠かせないスーパーアプリ「Grab(グラブ)」。
代表的なサービスはタクシー配車とフードデリバリーなので、Uberに似たアプリとイメージしていただくとわかりやすいでしょう。
Grabは破竹の勢いで急成長し、先発のUberを東南アジアから撤退させたほどの企業。
創業からわずか10年で8カ国480都市で利用されるまでに大きくなったGrabの成長戦略を徹底解説します。
目次
画像引用:Grab Holdings Inc.
Grab(グラブ)
◆2011年、マレーシア人がタクシー配車サービスを考案
マレーシアのタクシー環境の悪さを改善すべく、前身となる企業を2012年に創業。
◆2014年、本社をシンガポールに移転
東南アジアへの進出を強化。ソフトバンクから多額の出資を受け注目を集める。
◆2023年現在、8カ国480都市でサービスを展開
マレーシア・シンガポール・タイ・ベトナム・インドネシア・フィリピン・ミャンマー・カンボジアで利用可能。
主な提供サービス
・タクシー配車サービス
・フードデリバリーサービス
・配送サービス
・決済サービス
そもそもGrabはどんなアプリ?
移動・フードデリバリー・買い物・決済・配送、5つのポイントでローカルの人にとっても旅行者にとってもライフラインとなっているGrab。
人々の足であり台所であり、生活の支えであるGrabのサービスを紹介します。
正確・安全・安い
配車サービス
マレーシアでは都市部から離れると公共の交通機関があまり発達していないこともあり、移動には旅行者だけでなくローカルの人たちもGrabを頻繁に利用します。
配車は「目的地を入力・現在地を設定・予約」の3ステップで完結。車は普通車・大型車・プレミアムカーから選択可能です。
・正確
目的地は住所入力と地図上の2つの方法で指定でき、ルートも画面上に表示されるので、ドライバーと言葉が通じなくても正確に目的地を伝えることが可能です。
・安全
配車を予約する段階で料金が提示されるので、ドライバーに水増しされる心配はありません。
また車が地図上のルートから外れると、アプリ上に「ルートを外れています。安全上の問題はないですか?」とアラートが出るので、別の場所に連れて行かれて犯罪に巻き込まれることがないよう、危機管理がなされています。
・安い
上の画像は地方都市のサイバージャヤから都心のペトロナスツインタワーまで利用した場合のもの。約40kmの距離が1,200円弱と、日本のタクシーでは考えられない安さです。
国や地域に合わせた乗り物を用意
車の配車だけでなく、タイではバイクタクシー、カンボジアではトゥクトゥク、インドネシアではバジャイといった、地域の移動手段にあった乗り物も配車しているのがGrabの特徴。
この点はUberとの大きな違いです。バイクやトゥクトゥクはローカルの人たちに馴染み深く、自動車より安く乗れるので手軽さと気軽さが「使いやすさ」のポイントです。
超・生活密着型の
Food・Mart・Shopping
日本でも若者を中心に利用者が増えているフードデリバリー。Uber eatsが有名ですが、マレーシアをはじめとする東南アジアでは「Grab food」がよく使われています。
もともと東南アジアは日本より外食文化が盛ん。仕事をしている女性も多いので、夕食をデリバリーで頼み家族で食べる家庭も一般的で、若者に限らず多くの人々の台所となっています。
特徴は圧倒的な店舗数の多さ、そして頻繁に行われるプロモーション。配達員が暇な時間帯となる午後3時あたりに割引が行われることが多いので、早めに夕食を頼むとお得になるといった仕組みも、利用者の拡大に拍車をかけています。
「お買い物サービス」も生活密着型の戦略のひとつです。アプリから注文すると食品や日用品をドライバーがお店で購入し自宅まで届けてくれます。
東南アジアは1年を通して日中は日差しが強く気温が高いため、ローカルの人たちもあまり外に出たがりません。
とくにイスラム教徒の女性は体をおおう服装にヒジャブをかぶって生活しているので、お買い物にも一苦労。
また、コロナが大流行したパンデミック下では、政府による厳しい行動制限があり、食品や日用品の買い出しも自宅から1km以内のところまでなど規制があったため、お買い物サービスは急速に需要を伸ばしました。
至る所で使えるQRコード決済
マレーシアをはじめとする東南アジアの国々では支払いにQRコード決済を利用できる店舗が多数あります。
人との接触を最小限に抑えてたコロナ禍では、現金の受け渡しをしなくて済むQRコード決済が大活躍。
お店側も、クレジットカードリーダーを導入することなく簡単にキャッシュレス決済を始められることから、設備投資にお金をかけたくないスモールビジネスでも広く採用されています。
また、アプリ同士での送金も可能。友人と食事をして割り勘にする場合など、送金手数料もタイムラグもなくお金のやり取りができるので、「完全キャッシュレス生活」が実現できます。
Grabを成長に導いた
ハイパーローカライゼーション
Grabは発足から一貫して「ハイパーローカライゼーション(超・地域密着型)」を戦略の主軸としています。
貧富の差が大きい東南アジアの国々ではITやスマホに対する人々の知識もばらつきが大きい傾向。
そんな東南アジアでアプリを普及させるためにはローカル化が欠かせませんでした。
ガソリンスタンドでドライバーを獲得
創業時、配車サービスを開始するためにはドライバーの獲得が不可欠。
創業者はガソリンスタンドでタクシードライバーに声をかけ、アプリの使い方を教えることから始めました。
クアラルンプール中のガソリンスタンドを歩き回りスマホの操作から、ドライバーが稼げる仕組みまでを丁寧に教えることで、ドライバーの数を増やしたのがGrabサービスの起源となっています。
現地の乗り物を積極的に採用
先ほども少し触れた通り、Grabはバイクタクシーやトゥクトゥク、バジャイといった地域に根差した乗り物を積極的に配車。
バイクやトゥクトゥクは車より安く乗れるため、短い移動距離なら電車やバスよりも安価。
またバイクは交通渋滞に巻き込まれる心配もないので通勤の足としても利用されています。
さらに、もともとバイクやトゥクトゥクのドライバーとして日銭を稼いでいた人たちは、自動車を購入することなくGrabドライバーとして仕事を始められるので、参入障壁の低さも奏功。
こうしてGrabは低賃金労働者であったドライバーたちに稼げる仕組みを提供しました。
コロナ禍ではデリバリーに誘導
パンデミックにより行動制限が敷かれ人々が移動しなくなった数年間。旅行者も減り、世界中で失業するタクシードライバーが増加する中、Grabはドライバーたちに配達を積極的に行うよう呼びかけました。
ロックダウンで国中のレストランがクローズすると、外食ができなくなったためフードデリバリーの重要が急拡大。Grabはこの機を逃さず、提携の飲食店を増やし、配達の仕事を増やすことでドライバーたちの収入を確保することに成功しました。
この結果、コロナが収束したあともドライバーの数が減ることなく、安定してユーザーへサービスを提供しています。
・超・地域密着型で働き手を獲得
・働き手が稼ぎやすい仕組みの構築
・地域の生活習慣に根差したサービスを展開
・スマホが苦手でも操作できるわかりやすいUI
Grabの超・ローカル化のその先は?
現在、GrabはAI開発に多額の投資をしています。GAFAから優秀なエンジニアを呼び込み、最新のAI技術を配車サービスに導入。
交通渋滞を予測した配車システムや、交通量による乗車費の変動などを採用することで、ユーザビリティの向上を図ると同時に競合との差別化に力を注いでいます。
また、地域密着型の配車やデリバリーサービスに、決済機能に代表される金融を組み合わせることで、ASEANに一台ネットワークを作り上げることを模索。
東南アジアを代表するスーパーアプリとして、その存在感は今後、さらに増していくでしょう。
東南アジアにおけるITの未来は?
IT化において、日本は諸外国に大きく後れをとっていると言わざるを得ないでしょう。
マレーシアではQRコード決済は当たり前。駐車場ではカメラがナンバープレートを読み取り自動で駐車時間を管理。道端にはアプリ決済でレンタルできる自転車が配置されている、といった具合に「キャッシュレスかつ無人」で提供されるサービスがたくさんあります。
マレーシアのIT化がここまで早く進んでいる理由の一つは国民の平均年齢の低さもあるでしょう。日本の平均年齢が約60歳なのに対し、マレーシアは30歳。若者が多い分、新しいものに柔軟で、発展に対して貪欲な姿勢があります。
ただし、IT化といっても決して難しいシステムを世に広めるのではなく、原動力となるのはGrabのようなハイパーローカライゼーション。
発展や拡大のヒントはいつも「人々の暮らしの中にある」ということをGrabの成長は証明してくれています。
東南アジアへ行くことがありましたら、ぜひGrabを利用してみてください。
※こちらの記事は社外アイデア企画室株式会社が配信しているPodcastの内容をまとめたものです。配信は以下よりご視聴いただけます。